この第10条通報の理由について、福島原子力発電所発表は、次のように具体的に記している。
○福島第一原子力発電所発表[25]
3プラント(1号、2号、3号の意味)において、2系統ある外部電源のうちの1系統が故障停止し、外部電源が確保できない状態となり、非常用ディーゼル発電機が自動起動しました。
その後、午後3時41分、非常用ディーゼル発電機が故障停止し、これにより1、2および3号機の全ての交流電源が喪失したことから、午後3時42分に原子力災害対策特別措置法第 10 条第 1 項の規定に基づく特定事象が発生したと判断し、第 1 次緊急時態勢を発令するとともに、同項に基づき経済産業大臣、福島県知事、大熊町長および双葉町長ならびに関係行政機関へ通報しました。
○午後7時現在:福島第一原子力発電所発表[32]
その後、1号機および2号機の非常用炉心冷却装置について、注水流量の確認ができないので、念のため午後4時 36 分に、原子力災害対策特別措置法第 15 条第 1 項の規定に基づく特定事象が発生したと判断しました。
1号機においては、非常用復水器で原子炉内の蒸気を冷やしており、2、3号機については、原子炉隔離時冷却系で原子炉に注水しております。
4号機、5号機および6号機については、安全上の問題がない原子炉水位を確保しております。
モニタリングカーにより発電所敷地内(屋外)の放射性物質の測定を行い、通常値と変わらないことを確認しました。
著者コメント:
政府の避難指示は何を根拠に出されたのであろうか。「原子力災害対策特別措置法第15条第3項の規定」に基づくと公表されている。法令を辿ってみると「原子炉の運転等のための施設又は事業所外運搬に使用する容器の特性ごとに原子力緊急事態の発生を示す事象として主務省令で定めるもの」という規定に行き当たる。既に「原子力緊急事態」となっていたが、午後7時の福島第一原子力発電所発表では、外部放射線量測定結果に変化はない。原子炉が臨界状態にあるという報告もない。午後8時の原子力安全・保安院報告には、その時点で原子炉パラメータに異常が認められているという記述はない。従って、この時点では公表されていない何らかの指標に基づいて、避難指示が出されたと考えるのが妥当だろう。おそらく、格納容器圧力上昇と電源喪失シナリオによる事態の推移予測とを勘案して決定したのではないか。国民への説明は、理由と根拠を示して、避難指示をするのが適切と思う。3月11日夜の官房長官記者発表では「原子力災害対策特別措置法の規定に基づきまして」、「これは念のための指示でございます」、「放射能は現在、炉の外には漏れておりません」、「原子炉のうち、1つが冷却が出来ない状況に入っておりますので、このままの状態が続いた場合に備えて、念のため、避難をしていただきたいということでございます」と説明された。この中で「原子炉のうち、1つが冷却が出来ない状況」という表現は、事実経過と照らすと微妙な表現である。国民を信頼しないという政府の方針は、国民に不安を感じさせ、その後の買いだめという混乱を招く。買いだめに走るのは、充分な信頼できる情報が不足する故ではないか。情報不足による不安増大は、ある時点で怒りに変わる。
著者コメント:
第12報において、午前7時45分の避難指示が報告されてた。この第13報には、第12報に記載されていなかった6時45分の事項(原子炉格納容器内の圧力を抑制することを命令)が追加報告されている。この追加項目は、後日行われるべき当局の事故対応の評価という観点から眺めると、重要な事項なので、何故このような錯綜が生じたかについても、後日検証されるべきである。この追加報告の背景には事案そのものに対する相当の議論の存在が推定される。事実経緯については第3.6.2節を参照。