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2.4.2 福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の耐震安全性の議論

 本節のタイトルを冠した資料が公表されている
参考資料:福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の耐震安全性について、平成21年7月、原子力安全・保安院

この資料の一部を引用する。

図 2.11: 「福島原発の耐震安全性について」より:基本的考え方
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言うは易し、行うは難しの典型であろう。理論的にも論理的にも、完全はあり得ない。現実の作業の実態を知れば、空念仏の怖さがわかる[24]。

図 2.12: 「福島原発の耐震安全性について」より:耐震設計審査指針の改訂
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図 2.13: 「福島原発の耐震安全性について」より:新耐震設計審査指針のポイント
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図 2.14: 「福島原発の耐震安全性について」より:バックチェック結果の審議体制
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図 2.15: 「福島原発の耐震安全性について」より:審議実績及び審議に当たって特に注意したこと
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図 2.16: 「福島原発の耐震安全性について」より:発電所敷地周辺等の現地調査の実施
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図 2.17: 「福島原発の耐震安全性について」より:施設の耐震安全性の評価
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図 2.18: 「福島原発の耐震安全性について」より:福島原発の耐震安全性
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 夫々の分野の実績ある方々が集まって、数十回にわたる議論を重ねて、得られた結論は、最後の図にまとめられている。これは平成21年7月の結論である。

 図2.14の中に、「地震・津波WG」が存在し、津波が考慮されている事が明記されている。現地調査に赴いて、ふと目を東方海上に転ずる事はなかったのか。東の方より、歴史上に確認されている程度の大きさを有する津波が襲来すれば、福島第一原子力発電所の配置の場合、緊急用の様々な機器が、津波にもろともにさらされる事は一目でわかる。
 それぞれの分野でトップレベルの議論が展開されて、原発の耐震性の保証がなされた。その一例が東京電力から公表されている(福島第一原発 安全上重要な建物・穀z物及び機器・配管系の耐震安全性評価 平成22年7月16日)。
 精緻を極めた議論の前提となるべき諸々の機器と設備は、津波の前にあっけなく流失して、電源喪失、冷却剤完全消失、水素爆発、原子炉破壊の連鎖が起こった。ここでは夫々の専門家の議論を非難している訳ではない。それはそれなりに重要且つ有益である。しかし、議論の基礎となるべき緊急用機器と設備の多くが津波で使用不能となった現実と、そうした事が生じた背景とを直視しなければならないと指摘しているのである。
 ワーキンググループ体制の議論の展開を眺めると、専門家は集めた弊が如実に現れている。専門家は自分の土俵で勝負をしたがるものである。自分の専門分野においては、他を圧倒する議論を易々と展開できる。しかし、事象が成立する為の全体像については、無知に等しいか関心が薄いのか、全体の安全性に対する客観的な洞察はなされていない。原子力発電所の全ての機器及びその配置等の立地環境条件を含めた総合的な視野の中での安全性について、誰がいつどのような議論をしたのか。
 原子力発電所の全施設をどのように配置するかという問題には、安全に関する思想が反映される。口先で、
原子力発電所の耐震設計の基本的考え方は、
と唱える事はたやすき事である。電気機器が冠水すれば、ほとんど使用不能となる事は普通に理科を学んだ人であれば、誰でも理解できる。ところが、原子力発電所の電気機器は津波により冠水して、実際に使用不能となってしまった。この落差を生じてしまう所に問題の所在がある。
 想定震度をM6.5に設定し、津波によって容易に非常用機器群が流失冠水するレベルの耐震思想に基づいて、原発の設計をする。これは、唯々諾々と天災に負けるやり方である。既にデザインクライテリオンの段階で破綻している。その意味で、原発破局はまぎれもない人災であった。更に、このような誤り方の手順が繰り返される所に重大な欠陥がある。M9のエネルギーはM6.5の5600倍である。このほとんど絶対的ともいえる差を認めないのか、気付かないのか、敢えて無視するのか。近代科学精神の根本に違背する思考過程ではないか。
 日本の原子力利用が、具体的には米国からの直輸入により出発したという事実を指摘しなければならない。福島1号機は米国GE社の関与の割合が高い。米国においては津波を考慮する必要がない(とされるようだ)。それ故、米国仕様には津波は盛り込まれていなかったと聞く。その後、ある時点から津波は耐震仕様に盛り込まれたが、その地震規模はM6.5という小さな値であった。

 東京電力の宣伝用ドキュメントに、「地震対策」という題目の小論がある。この中に耐震安全思想の破綻の原因と思われる図が掲載されている。

図 2.19: クラス分けして耐震性を考慮
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上図の説明は次の如くである。
考えられる最大の地震も考慮して設計しています。
 原子力発電所の建物や機器・配管などは、歴史上の地震や活断層の詳細な調査結果に基づき、周辺地域でこれ以上の規模では起こり得ないような大きな地震や直下型地震を想定し、これに耐えられる設備とするため、耐震上の重要度に応じてS・B・Cの3つのクラスに分けて設計しています。
 また、原子力発電所の耐震設計で発電所の敷地に想定する地震動(地震の揺れ)は、強度に応じて基準地震動Ssとして定義されています。基準地震動Ssは、プレート境界で発生する地震や内陸の活断層により発生する地震など、あらかじめ敷地周辺で具体的に想定される震源による地震動(敷地ごとに震源を特定して策定する地震動)を評価した上で、敷地近傍において特定の震源によらず念のために想定するものとして、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の地震について得られた観測記録等をもとに想定する地震動(震源を特定せずに策定する地震動)を併せて評価し、策定しています。
 Sクラスの設備は、基準地震動Ssによる地震力、さらに建築基準法で定められた3倍の規模の地震力に対しても、十分に安全であるように設計することで、原子力発電の「止める」「冷やす」「閉じ込める」という安全機能を維持しています。
 BクラスとCクラスの基準で作られた重要機器が使用不能となった現実を前にしては、クラス分けという手法は単なるコスト対策として利用されたと思われる。「耐震上の重要度に応じて」クラス分けした結果、原発の破局を招いたのであるから、耐震安全設計の指針が完全に間違っていた。なお、筆者はクラス分け自体が悪いと主張しているのではない。緊急用の機器は、クラス分けするとすれば、Sの上位のSSクラスでなければ、クライテリオンとして破綻していると、考えるのである。
 更に、「津波への対策」については、安全性が確認されている事を簡単に記している。
原子力発電所では、敷地周辺で過去に発生した津波の記録を十分調査するとともに、過去最大の津波を上回る、地震学的に想定される最大級の津波を数値シミュレーションにより評価し、重要施設の安全性を確認しています。また、発電所敷地の高さに余裕を持たせるなどの様々な安全対策を講じています。
図 2.20: 津波対策
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 こうした説明にごまかされてはいけない。現実にはM6.5を想定していたのだから、M9.0地震直後に、関係者が「想定外」と幾度も唱えたのは理解できる。しかしながら、その「想定」は、歴史上の経験を無視した非常識であった事を意味するのみ。


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Kozan 平成23年8月1日