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8.3 原子力安全・保安院

 原子力安全・保安院は経済産業省設置法により設置されている。関係する条文を引用する。
第三款 特別の機関
(原子力安全・保安院)
第二十条  資源エネルギー庁に、原子力安全・保安院を置く。
2  原子力安全・保安院は、原子力その他のエネルギーに係る安全及び産業保安の確保を図るための機関とする。
3  原子力安全・保安院は、第四条第一項第五十七号から第五十九号まで、第六十二号及び第六十四号に掲げる事務をつかさどる。
4  原子力安全・保安院の長は、原子力安全・保安院長とする。
5  原子力安全・保安院の職員(原子力安全・保安院長を除く。)の任免は、原子力安全・保安院長が行う。
6  原子力安全・保安院の位置及び内部組織は、政令で定める。

第四条  経済産業省は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
五十七  原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに発電用原子力施設に関する規制その他これらの事業及び施設に関する安全の確保に関すること。
五十八  エネルギーとしての利用に関する原子力の安全の確保に関すること。
五十九  火薬類の取締り、高圧ガスの保安、鉱山における保安その他の所掌に係る保安(以下「産業保安」という。)の確保に関すること。
六十二  所掌事務に係る国際協力に関すること。
六十四  前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき経済産業省に属させられた事務

第十四条  国家行政組織法第三条第二項 の規定に基づいて、経済産業省に、次の外局を置く。
資源エネルギー庁

第十六条  資源エネルギー庁は、鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保並びにこれらの適正な利用の推進を図ること並びに産業保安を確保することを任務とする。
 組織をみると、経済産業省の外局の一つに資源エネルギー庁が設置され、その中に原子力安全・保安院が置かれる構造である。原子力安全・保安院の英語表記は Nuclear and Industrial Safety Agency とある。訳すと「核と産業に関する安全局」であろうか。日本語表記だとあたかも原子力関係だけを扱うように錯覚しそうだが、英語表記ならば、核と産業が所掌分野である事が正しく理解でき、経済産業省の傘下にある事も理解できる。
 第二十条の2項には「原子力その他のエネルギーに係る安全及び産業保安の確保を図るための機関」と記されている。これだけでは、原子力安全・保安院と原子力委員会、及び原子力安全委員会との関係がわかりにくい。しかし、第四条には正確に「次に掲げる事務をつかさどる」と書いてあり、原子力委員会と原子力安全委員会が決めた事を実際に司る事務機関である事がわかる。法律の体系から考えても、原子力基本法が原子力に関して基本の法律であり、そこには原子力安全・保安院は全く記述されていない。
 このように、本来ならば原子力安全・保安院(の中の原子力部門)は、原子力安全委員会に属しているのが自然な形といえる。
 なお、資源エネルギー庁の任務は「鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保並びにこれらの適正な利用の推進を図ること並びに産業保安を確保すること」と記述されているので、原子力エネルギーの利用に関しても、「適正な利用の推進を図る」ことが目的となる。従って、資源エネルギー庁傘下の原子力安全・保安院が、原子力の推進を妨げるような厳しい規制をする事はあり得ないという結論になる。本来、原子力基本法により、原子力の利用は「安全の確保を旨」とすべきであるのに、格下の法律である「経済産業省設置法」内の「エネルギーの適正利用の推進」という目的に沿って運用されるという誤った組織形態となっている。
 原子力基本法によって規定される二つの委員会は、原子力関連の最高位の決定機関であるが、行政機関である経済産業省の傘下に全ての許認可権限を組み入れる事によって、原子力行政の実際の権限は経済産業省がそのほとんどの部分を行使する事になった。そもそも内閣総理大臣が任命する原子力委員会委員長と原子力安全委員会委員長が、単なる学識経験者のおかざりにならない為には、その配下に能力ある実務集団を持たなければならない。現実には、原子力関連の予算を作るのは、それぞれを所掌する省であり、原子力委員会は、各章から提出された予算をまとめた表にOKサインを出す程度の実力しか持っていないと推察する。こうして、経産省、文科省(かつての科学技術庁を含む)は思いのままに原子力行政を推進し、思いのままに関連団体(これが天下り先)を作った。
 こうした仕組みを作った目的について、当事者達は先刻承知の上と推察する。その目的が「安全の確保を旨とする」ことではない事は、明白である。
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Kozan 平成23年8月1日