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3.2 原発事故のシミュレーション

 これまで原発を推進してきた人々も、原発事故は危険であると認識していた。それ故に、原発にはどのような故障過程があり得るかという問題を様々な角度から徹底的に研究した。その一つの成果が原子力安全基盤機構から報告された(平成20年度地震時レベル2PSAの解析(BWR)、平成21年8月、原子力安全基盤機平成21年度地震時レベル2PSAの解析(BWR)、平成22年10月、原子力安全基盤機)。
 どのような事故のシーケンスが考慮されているかを引用する

図 3.11: 地震時の主な事故シーケンス(1)
\includegraphics[width=18cm,clip]{pls1.eps}

図 3.12: 地震時の主な事故シーケンス(2)
\includegraphics[width=18cm,clip]{pls2.eps}

 こうした事故シーケンスを想定して行われたシミュレーションの一例を引用する。

2.3 BWR-4 Mark(特)型原子炉施設の事故進展解析

MELCOR コードを用いて事故進展及びソースタームを解析して検討した。評価対象とした事故シーケンスは、BWR-4 代表炉のレベル1 地震PSA の解析結果から得られた事故シーケンスから選択した。

2.3.1 解析条件

BWR-4 Mark(特)型原子炉施設の原子炉建屋は図2.10 に示す。図2.11 に、非常用炉心冷却系の系統概要を示す。MELOCR コードには、格納容器スプレイ以外の工学的安全系のモデルは組み込まれていないため、高圧注水系(HPCI)、炉心スプレイ系(CS)、自動減圧系(ADS)などを作動条件、注水流量、水源等のデータを用いた制御関数によりモデル化した。主な解析条件は、表2.3 に記載した。

2.3.2 地震時の主な事故シーケンスの事故進展とソースターム解析

(1)電源喪失(TBU)
地震時の電源喪失に係る事故シーケンスについて、本検討では電源喪失(TBU)について解析した。TBU の事故進展解析結果を図2.12-1 から図2.12-5 に、それぞれ示す。
 TBU の事象では、地震によって電源喪失になり、高圧注水系(RCIC 等)による原子炉注水に失敗する。そのため炉心冷却手段が確保できず、約1.7 時間後に燃料落下開始、約3.6 時間後に原子炉圧力容器破損、約6.9 時間後に格納容器の過圧破損となる結果が得られた。解析終了時点での原子炉施設内の放射性物質の存在量分布を、図2.12-6 に示す。炉心損傷に伴い放出されたCsI は、TBU では圧力抑制プール水中に放出され、スクラビング効果によって圧力抑制プール水中に大半が移行するとともに、圧力容器破損後にはドライウェルに流出したのち、多くが原子炉建屋に沈着した。CsI 環境放出量は、炉心内蔵量の約9%である。
 シミュレーション結果によれば、電源喪失(TBU)が生じた場合、次のように事故は進展する。  事故シーケンス(1)のTQUXでは、炉心損傷後に水素が発生して、格納容器に移行すると記されている。この意味する所は次の点にあろう。炉心損傷が起こり、格納容器圧力が高まり、リークを生じて外部放射線量の増大がみられる場合には、漏れやすい水素は既に外部に漏れ、水素爆発の危険が生じる
 電源喪失事故(TBU)は起こりうる事故である。原発安全神話は、その場合、非常用の機器が有効に働く故に、放射性物質を大量に外部に放出する破局は、回避されると断定した。ところが、今回のM9.0地震の場合、電源喪失が起こり、頼りにすべき非常用の機器は津波によって使用不能となった。精緻な理論を捏ねて安全確率を高めようとも、理論の前提が虚構であっては、安全の助けにはならぬ。起こりえぬはずの破局シーケンスが現実に起こり、シミュレーション結果を検証する機会が与えられるとは、なんと空しいことか。
  RPV:原子炉圧力容器(Reactor Pressure Vessel)
PCV:格納容器(Primary Containment Vessel)

図 3.13: 電源喪失(TBU)の場合の原子炉冷却系水位の変化
\includegraphics[width=14cm,clip]{qls5.eps}

図 3.14: 電源喪失(TBU)の場合の炉心最高温度の変化
\includegraphics[width=14cm,clip]{qls6.eps}

図 3.15: 電源喪失(TBU)の場合の格納容器系圧力の変化
\includegraphics[width=14cm,clip]{qls7.eps}

図 3.16: 電源喪失(TBU)の場合の炉心最高温度の変化
\includegraphics[width=14cm,clip]{qls8.eps}

図 3.17: 電源喪失(TBU)の場合の各放射線物質の環境放出割合
\includegraphics[width=14cm,clip]{qls9.eps}

 ここに引用した電源喪失による破局シナリオの存在は、原発関係者にとっては衆知の事実であったと考えられる。原発関係者、原子力工学関係者は、電源喪失、原子炉冷却機能喪失という言葉を聞いただけで、その後の事故の推移をほとんど確実に推定したに違いない。少なくとも、学問的レベルにおいて原発に関与して来た方々が、こうしたシナリオに無知であったという事は考えられない事である。
 平成2年に原子力安全委員会は安全設計の指針を決定している[20]。

指針27.電源喪失に対する設計上の考慮
 長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない。
 非常用交流電源設備の信頼度が、系統構成又は運用(常に稼働状態にしておくことなど)により、十分高い場合においては、設計上全交流動力電源喪失を想定しなくてもよい。
 考慮すれば、大幅なコスト増となる事は自明である。地震津波の大きさの設定にしても、同じ論理で過小の設定をしている。同じ事の繰り返しである。これは何か根深い所に起因する問題なのであろうか。
 平成22年5月の衆議院経済産業委員会において。原子力発電所の電源喪失の問題が取り上げられている。寺坂保安院長が「(電源喪失は)ゼロじゃないという意味の論理的な世界」という答弁をした。その記録を参考資料として引用する。
参考資料:衆議院経済産業委員会記録2010年5月26日


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Kozan 平成23年8月1日