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7月9日付けの日本経済新聞に加藤典洋氏の「震災・原発事故に思う」と題するインタビュー記事が掲載された。筆者の印象に残る文言を採録する。
- 外国で震災と原発事故のニュースを見て、せつなくて涙が出てきた。
- 要するに放射能というのは、年齢の若い人々、これから生まれてくる次世代の人々を襲う。中高年にはそれほど深刻ではない。原発に対しては、これまで何もしてこなかった。自分が十分に引き受けられない苦しみを未来の人間に負わせることの自責の念には、これまでに味わったことのない、未知の痛みがあったように思う。
- 私は科学を否定しない。しかし、原子力発電は科学技術として粗野、野蛮すぎる。もっと高度に、科学を進め、この野蛮な段階を、少しでも早く脱すべきだと思う。
- 代替再生可能エネルギーの開発は、私にとっては引き返すことではなく、前進することだ。経済的にもそれで新しい産業を興し、産業構造を変えていく。生き方も哲学も更新していく。『生活水準を下げよう』とか『電気は消しましょう』という主張には思想的に賛成できない。経済成長の『成長』神話を、後退ではなく、前進することで乗り越えていく脱『成長』の考え方、普通の人々の感覚に足場をおく考え方がよいと思う。
- 開発途上の大国を説得できる脱『成長』の手本を作るべきだ。自然と両立する、より洗練された代替エネルギーの開発、実践がそうで、日本はこの線を目指すのがよい。原発は当座のつなぎとして、順次、ゆっくりと廃止していく。
- 現在脱原発に転換した国がスイス以外では、ドイツ、イタリアと、旧枢軸国だということの意味を考えたい。第2次大戦で敗れ、核兵器をもてない軍事的デメリットがいま『代替エネルギーへの転換』の身軽さとなって表れている。他の旧連合国、旧ソ連の核保有国は、産業構造と国防方針からそれができない。なぜ同じ敗戦国で、原爆、ビキニ環礁の被害経験をもつ日本でこれほど反応が鈍いのか。メディアの社会的機能が麻痺していると言うほかない。
- 最後に一言、現在の政局は問題だ。菅首相が送発電分離、再生エネルギー促進を主張し、経産省、電力会社、政界守旧派と対立しているのが基本構造だろう。どんなに人間が悪くともよい(笑い)。菅首相にはぜひ、初心を貫徹してもらいたい。
氏は、簡明に事態の深層を解き明かしており、共感できる。
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Kozan
平成23年8月1日