next up previous contents index
次へ: 8. 原子力推進体制 上へ: 7. 怖い話 戻る: 7. 怖い話   目次   索引


7.1 低放射線と健康――20ミリシーベルト半減期30年

 低放射線量の被ばくの場合、信頼性に足る調査が難しかった等のためか、健康に対する影響について、確かな学説はないようである。しかし、高い放射線被曝の結果を外挿する形で、いろんな説明がされている。その基礎として引用されるICRPという国際機関の指針は次のようなものと聞く。
100ミリシーベルトの被ばくは、ガン死亡のリスクを0.55パーセント上昇させる。低い被ばくの場合には、(例えば)比例関係を用いて外挿する。
 この説は、おそらくであるが、例えば1000人が100ミリシーベルトの被ばくをすれば、その結果としてガンを発症して5.5人が死亡したというような、多くの人に対する調査から導かれていると考えられる。「一人の死亡の確率が0.55パーセント上昇した」という事象については調査のやりようがないので、多くの人数に対しての調査から、一人当たりの確率を算出していると推定されるのである。
 今、日本では年間20ミリシーベルトが基準と定められている。被ばく効果に関して、被ばく放射線量が低いケースへの外挿を直線的(被ばく量に比例する)と仮定すれば、20ミリシーベルトの被ばくは、ガンの死亡率を0.11パーセント上昇させる。これをわかりやすく言い換えると次のようになるだろう。
20ミリシーベルトの被ばくは、ガン死亡のリスクを0.11パーセント上昇させる。1000人の20ミリシーベルト被ばく者がいれば、その中の1.1人は被ばくが原因のガンで死亡する。
 ここでの確率は地震が起きる確率とは意味合いが少し違う。地震の場合は、その確率で起きそうだと予言しているのであり、起きない場合もある。ところが、疫学調査の結論では、ある割合の人々が必ず死ぬと予言しているのである。1000人の中で誰が死ぬかはわからないが、1.1人は確実に死ぬ確率である。但し、0.11パーセントという数値が持つ誤差(おそらく数十パーセント)が生じる可能性はある。
 さて、ここで問題を出すので考えてほしい。
ある中学校で三年生1000人の修学旅行を計画した。ところが、修学旅行中に行けば、生徒の中の1.1人(0.11パーセント)は必ず死亡するという情報が入った。あなたが校長ならば、あるいは父兄ならば、修学旅行に行かせるでしょうか。
 この設問に「行かせない」と答えた方は、20ミリシーベルトという放射線レベルは危険であると考えるべきであり、それなりの対策をとる必要がある。「行かせる」と答えた方は、現在の放射線レベルを気にかけなくてよいであろう。
 放射線リスクの「確率0.11パーセント」の意味は、1000人が被ばくすれば、その内1.1人は必ず死亡するという意味であると述べた。従って、例にして申し訳ないが、福島県民200万人が年間20ミリシーベルトの被ばくをすれば、0.11パーセント(2200人)の犠牲者が、将来にわたり確実に出るという結論となる。半減期30年の期間を考慮すれば、一年当たり2200人〜1100人の犠牲者予備群が毎年生まれ、その数字は加算されねばならない。従って、いくつかの仮定をして、今後の30年間の犠牲者予備群を合計すれば次の数字となる。
最初20ミリシーベルト(半減期30年)の放射線を、今後30年にわたり県民200万人が被ばくし続けるとすれば、30年の間に生じる死者予備群の合計はおよそ47600人となる。これは県民全体の2.4パーセントに相当する。これだけの人が、確実に放射線の影響でガンにより亡くなる。それが被ばく量年間20ミリシーベルトで半減期30年の意味である。
 もちろん、ここに引用した結果は、被ばく回避努力を何もしないという前提があり、単なる試算に過ぎない事は割り引かねばならない。但し、死者が出る周辺には、その何倍もの健康被害者がいると考えるのも、常識的ではないかと筆者は思う。
 第5.3節で紹介したが、福島県内の学校等1624箇所の測定データの平均は、1.8マイクロシーベルト/時間であった。これは年間およそ16ミリシーベルトの値となる。従って、上に引用した200万人の試算結果は、福島県内においては、ほとんど現実にあり得る数字といえる。この被ばくは一過性ではなく、そこに住み続けるだけで、数十年にわたり自然に継続的に被ばくするという厄介な性質を持つ。ここまでの結果をまとめて7.1図に示した。本図の元図は安全意識を高める目的の為に広く使用されている。しかし、その意味は、元図の右側に付加した通りの怖い内容を含んでいるのである。従って、筆者は、福島県のような高いレベルの場所においては、何らかの回避策が必須と考える。
 原発による被ばく量年間20ミリシーベルトによって、これだけの影響(死者)が出る事を、研究者自身が拠り所としている学説が予見しているのに、20ミリシーベルトは健康に大きな影響は無いと大局的な意見を披露する研究者もいるようだ。100ミリシーベルトも大丈夫と言う彼らに質問したい。
「200万人のうちの何人が死ぬ計算になれば、健康に影響があるというのですか」
「100ミリシーベルトで0.55パーセントの影響があるのに、それ以下の被ばくでは効果がゼロという事がありうるのですか」
 「日本人の30パーセントはガンで死ぬ。その確率がわずか0.1パーセント増えるだけですから、安心です。」という類の数字のトリックにくれぐれも騙されませんように。
図 7.1: 原発による放射線のもとでの日常生活――30年後の結果:半減期30年の放射線の被ばくを30年の間続けた時に予見される総計死者数をICRPのデータを基礎にして試算した結果を、放射線の安全性を広く衆知させる目的でしばしば使用される「日常生活と放射線」と題する図の右横に書き加えた。福島県の学校等1624箇所の4月初めの平均放射線量は1.8マイクロシーベルト/時間である。これは単純計算では16ミリシーベルト/年 相当となる。この数字をそのまま使えば、福島県(200万人とする)では、今後30年の間に、この放射線の影響によってガンとなり死亡する人の合計数は38000人と見込まれる。(これは30年の間に犠牲となる意味ではなく、その後の期間も含めて発症して亡くなるという意味である。念のため)。元図には文部科学省公表の放射線データ等の末尾に付加されている図を利用。
\includegraphics[width=22cm,clip]{radsafelevelmod.eps}

next up previous contents index
次へ: 8. 原子力推進体制 上へ: 7. 怖い話 戻る: 7. 怖い話   目次   索引
Kozan 平成23年8月1日