next up previous contents index
次へ: 6.4 水素爆発に対する備え――安全性 上へ: 6. その後の資料公表――メルトダウンに至る道 戻る: 6.2 1号機炉心メルトダウンに至るまで   目次   索引

6.3 見逃されていた1号機のメルトダウン

 6月24日に原子力安全・保安院は、事故発生以来東電から送付されてきた膨大な数のファックスを公開した。3月11日の事故発生以後、福島第一原子力発電所の緊急対策室が、どのような対応をとってきたのかが、一次資料によって検討できる。
 まず、3月11日から12日にかけて送付されたファックスの内容をまとめてみた。
宛先:経済産業大臣、福島県知事、大熊町長、双葉町長
   日付 fax時刻 事象時刻
図 6.3: 3月11日21時02分に送付されたファックス:2号機の水位が危険領域に迫っているので、避難をお願いしたいと記述
\includegraphics[width=16cm,clip]{hinanprepare311-2102.eps}

図 6.4: 3月11日21時02分に送付されてファックスに添付されたプラントパラメータ
\includegraphics[width=16cm,clip]{plantpara311-2030.eps}

 5月以降に公表された資料によれば、1号機では3月11日の18時までには原子炉水位が燃料頂部に到達して、19時頃には炉心損傷が始まっていた。
 3月11日21時02分のファックスには、「周辺住民の避難の要請」が記述されているが、その理由は「2号機の水位が燃料頂部に達する可能性があるため」と記されている。しかし22時11分のファックスでは、2号機の安全水位が確認されて、水位の燃料頂部到達はなしとされ、おそらく周辺自治体は歓喜に湧いた事であろう。既に21時23分には内閣総理大臣より、福島県知事、大熊町長及び双葉町長に対し、東京電力(株)福島第一原子力発電所で発生した事故に関し、原子力災害対策特別措置法第15条第3項の規定に基づく避難指示が出されていた。
 ところが、実際には1号機の炉心損傷はその2時間前に既に始まり、メルトダウンへ向かって破局が進行していた。
 全くのお笑いというべきか、怪我の功名というべきか、2号機の危機切迫による避難指示は全くの誤報であったが、知らぬあいだに既に生じていた1号機のメルトダウンに対しての避難指示として、有効に活用される事になった。まさに世紀の誤報と誤指示だったといえよう。
 1号機に関して、発電所の緊急対策室はどう判断していたのか。それは、21時02分のファックスに添付されていたプラントパラメータ図6.4に記述されている。注水状況の1u(1号機)の欄には「IC動作中」、原子炉圧力と水位は「不明」と記述される。これが、18時18分の非常用復水器の弁操作を踏まえての記述であり、「動作しているから1号機に問題はない」という認識のもとで書かれているとすれば、18時18分以前に弁が閉じていた事の意味(炉心状態の悪化)を無視していた事になる。
 結局の所、緊急対策室は、相当遅い時刻まで非常用復水器は、長い時間停止する事なしに正常に動作していると思い込んでいたのではあるまいか。具体的な原子炉パラメータ(圧力と水位)が皆目わからないにもかかわらず、1号機に関して、緊急対策室はほとんど何の注意も払っていない。それは、関係省庁へ送られたファックスに1号機に関する危機的状況が、何も記述されていない事に反映される。23時49分のファックスに1号機近辺の放射線量増大が報告され、その原因は調査中と記されている。これが1号機の異常を関係各省に知らせた最初の報告である。
 1号機で炉心の損傷が起こっているのに、それに全く気付かないという事があり得るのだろうか。いくつかの兆候は存在していた。

 放射線モニターは原子力発電所においては、重要な役割を果たす。普通、その測定結果には桁違いという類の大きな誤りはない。17:50に放射線レベルが上がれば、それは当然ながら何かを反映している。何かが怪しいというので、18:18にICの戻り配管隔離弁2A、供給配管隔離弁3A開操作をしたのではないか。開操作をしたという事は、それまで閉じていた事を意味する。それは非常用復水器が機能していなかった事を意味するのではないか。弁が閉じていたと推定される長い時間を考えれば、炉心の危機的な状況は即座に推察可能である。
 そもそも、全電源停止の時に、メカニカルな動作をする機器がどのような状態になるかは、慎重にチェックすべきはずの課題である。複雑なシステムを運転する場合、全停電という異常時には、あらかじめ組み込まれた安全シーケンスが希望通り動くとは限らない。安全シーケンスは、システムの成長と共に改良されるべきものであり、その結果、思わぬ穴が開いてしまうのが常である。故に、そうした場合、現場での確認作業は必須である。
 緊急対策室にとって不幸だったのは、久しぶりに測定された原子炉水位がTAF(燃料頂部)+450mmと少しだけ安心できる数値だった事だ(22:11分ファックス)。後日、測定に誤りがあった事が判明したが、後の祭りである。しかしながら、筆者が育った研究環境には、測定値はまず疑いを持って検討すべきものという雰囲気が満ちていた。二重三重の裏付けがなくては、重要な測定値を信頼する事は出来ない。他の様々な兆候と比較検討しつつ、何が一番信頼に足りるデータかという視点を持って、全体を検討する必要があったのではないか。
next up previous contents index
次へ: 6.4 水素爆発に対する備え――安全性 上へ: 6. その後の資料公表――メルトダウンに至る道 戻る: 6.2 1号機炉心メルトダウンに至るまで   目次   索引
Kozan 平成23年8月1日