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電源喪失シナリオによれば、早期に炉心損傷が起こり、格納容器の破損につながる。その過程で、炉心中の金属反応で発生した水素が格納容器に移行する。格納容器圧力が高まると、水素は外部に漏れ出して、外部建屋に充満して、水素爆発の危険がます。従って、原子力発電所内のどの部位においても、水素爆発の要件を満たせば、爆発が起こる可能性が存在する。爆発の威力が大きいので、その後の状況が極度に悪化する事は容易に推定されることである。この水素爆発を阻止できるのかどうか。事故の重大化の分岐点であった。
発電所全停電の時に、どのようにして原子炉運転パラメータ(温度、圧力、水位、流量など)が取得できたかについて、筆者は情報を得ていない。測定系に損傷がなく、バッテリー駆動が可能なものは、ある場所においてはパラメータ取得が出来たであろう。おそらくタイプの違う計測器を設置している可能性が高いので、測定原理が簡単な計測器は、測定値の指示を入手できる可能性がある。コントロール室は全停電状態と聞いているので、そこには測定値の電気信号は来ない。コンピュータも止まっており、所内の通信回線も止まっていたと推定される。現場のモニター部署であれば、電気信号変換前のシグナルを直接目視できるタイプの計測器が存在した可能性もある。というわけで、事故後のプラント運転パラメータは極度に不足している。
公開されたデータを元に作られた事故直後からの1号機原子炉パラメータを下図に示す。出典:原子力情報資料室資料サイト。
図 3.23:
1号機のプラントパラメータの推移:3月11日〜12日
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図3.23と3.24について検討する。
- 12日零時前後の二つの圧力測定値が事実を表わしているかどうかは不明。
- 原子力安全・保安院発表資料によれば、格納容器内圧は600kPa程度(午前2時)、840kPa程度(午前4時)としている。
- 12日の5時付近から、原子炉水位は急激に低下する。これは炉心損傷に対応し、水素の発生と炉心からのリークに対応すると考えられる。
- 午前4時30分に、正門付近で顕著な放射線増加が測定されているので、5時前後の原子炉水位の急速な減少と格納容器圧力上昇に対応していると推定される。既に、放射線濃度の強いガスが、圧力容器から格納容器へ抜け、格納容器の圧力増大によって、リークが始まったと推定される。特に水素は分子量が小さいので抜けやすい。あるいは、種々の配管を通じて、格納容器を介さずに建屋に通じるルートがある可能性も考えられる。その場合は、地震の為、あるいは高熱の為にどこかが破壊されたと考えられる。
- 12日13時38分付近から始まる格納容器圧力の急激な減少は、格納容器の大気中へのベント開始(14時40分)に対応していると思われる。
- 12日15時36分に建屋にて水素爆発が起こった。
- 建屋の水素爆発以後も、原子炉圧力と格納容器圧力の上昇が見られるので、これらの破壊は免れたと推定される。
4月8日に公開された事故初期のプラントパラメータ[50]を図示した。
水位ゼロは、燃料頂部を意味するという。従ってマイナス表示は燃料が露出している事を意味する。燃料棒の長さは約4mなので、測定値が正しいとすれば、核燃料の半分露出の状態が継続している。
図 3.27:
1号機ドライウェル圧力変化:絶対圧
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注:
公表された初期データは、それぞれの元データから集計されていると思われるが、そのまとめ作業の過程で修正されたと思われる部分に以下の箇所があり得よう。元データの取得が難しかった可能性があるし、手入力によると推定されるミスもある。
1号機:3月12日〜13日、3月14日〜17日
2号機:3月13日〜16日
格納容器圧力(DW:ドライウェル)は12日に0.941MPaを記録している。この値は設計値の2倍以上であり、この時点で破損を生じる可能性が高まっていた。12日14時40分のベント開始で、急激に圧力は減少する。
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Kozan
平成23年8月1日